第7章その終わりに何が残るのか?「さすがに……ウォービル様相手はキツイな……」 グレイが、ぽつりと呟いた。その言葉には、裏も表もない。 ウォービルの指揮する9000の大軍勢は、恐るべき程に統率され、一進一退の見事な戦術でグレイを悩ませた。斬り込む糸口を見つけるや否や、すぐさま退き反撃から逃げ、一旦攻撃の手を休めれば攻撃に打って出るという、非常にやりにくい戦法であった。 すでにグレイの軍勢は半数が討ち取られているだろう。撤退、反撃をされているうちに士気の下がったところも多々突かれた。 こちらは1000も討っただろうか。グレイは、一抹の不安を感じた。 「オレたちは、左舷より敵を討つ!一歩も退くな!!虎狼騎士の意地を見せろ!!」 ゼロの軍が進む。軍勢千騎には、精鋭200騎が含まれている。彼らは皆一騎当千の剛の者だった。 「ゼロ!!」 そこに、一頭の馬とそれに乗る一人の女性がゼロの側に寄って来た。 見間違えるはずもない、彼女はユフィであった。 戦闘用の、ゼロと同じ黒一色の重要箇所のみガードする軽鎧を身につけ、下部は対刃製のレギンスで脛のあたりを塞いでいる、至ってシンプルな、ゼロから見れば危険極まりない格好であった。 「ユフィ!なんで来たんだ?!危険だろ?!」 「南と西の大事に、私だけ参戦しないなんて出来ない。それに……ただ待ってるの、辛かったんだもん……」 ユフィがすごく幼いような、淡い表情をする。 ゼロは、やれやれといった風にため息をついた。 「前線に行くことは許さない。“俺の”後方支援に徹しろ」 そう言うゼロ自身、彼女が来てくれたことは心配な反面とても嬉しかった。 父親が相手という辛い状況に、自壊寸前であったのだ。本当に、有難かった。 ファルはグレイの軍の一員として戦っていた。基本的に彼は指揮より戦闘が得意なのだ。それに加え、プライドが高く、戦いの経験豊富な西の戦士たちが、実力で上だとしてもまだまだ若い彼の言うことを聞くこと自体少ない。 ファルが戦っていると、また敵が一時的撤退をした。 「くそっ!!……東の腰抜けども!!ボクはファル・ヘルティム。西の虎狼九騎将が一人、金乱剣のファルだ!!誰かボクを討とうという奴はいないのか!!?」 金乱剣とは、ファルの美しい金髪が、彼が戦う度に乱れ、靡くことから付けられた名だった。その美少年と呼ぶに相応しい容姿と、戦う姿の美しさ、二つの美しさを持った二つ名だった。 彼の叫びに応じたのか、一人の青年が前に出た。 「おいチビ!!誰が腰抜けだ!誰が!!俺様が相手になってやるよ!!レドウィン家の嫡子、ルー・レドウィンだ!!かかって来い!!」 ルー・レドウィン。ユフィの先輩にして、ゼロの旧友の一人である。父グレイトの指示で、今は東の戦士になったのはホントのようだ。 ―――ルー……レドウィン……?聞いたことが……ある気がする……。 ファルは彼の名を思い出そうとして、ゼロの顔が浮かんできた。だがそれで納得したようだ。彼の記憶に引っかかる人、物事を思い出そうとしたとき、ゼロの顔が浮かぶのはほぼ全てゼロから聞いたことなのだ。 ―――ま、ボクがこいつを倒せば、ゼロも喜んでくれるでしょ。 こうして、ファルとルーの一騎打ちが始まった。 「くぅっ!!まだまだ!!」 クウェイラートはすでに3分ほどのミリエラの猛攻を耐えていた。 すでにクウェイラートの剣は刃毀れが生じていた。 防ぎ、避け、また避け、防いで防いで防いで……必死の防御だった。 クウェイラートが息つく暇なく、防戦していると、急にミリエラが少し間を置いた。 そして呼吸を整える。彼女の雰囲気が一変し、殺気の塊となった。 ―――ここでくるか!!! クウェイラートは覚悟を決めた。次の攻防は、全ての決着を決める攻防となるのだ。なんとしてでも防ぎきり、自分の勝利へと繋げる。 「青龍……皇魔……訊きなさい!虎狼の……雄叫びを!!」 ミリエラが特殊な呼吸法で身体能力を強化魔法にプラスしてさらに極限まで高め、己をギリギリまで追い込み、それを発動させた。彼女の身体が一瞬輝き、目にも止まらぬ速さで繰り出された彼女の剣からは光の波が溢れたように見えた。その光が、クウェイラートを襲った。 二人が光に包まれる。 残光の中、立っていたのは……どちらでもなく、両者は地に倒れ付していた。 双方に側近が近付く。 ミリエラの側近である女性虎狼騎士が、クウェイラートの側近らしき騎士に声をかけた。 「お互い、主を死なせたくはないでしょう。ここは両者一旦軍を退くべきと心得ます」 「……了承した」 その二人の会話で、ミリエラの軍勢と、クウェイラートの軍勢が引き上げていく。騎士としての名誉を重んじ、いざ戦いになれば卑怯な手は決して使わない。そんな主を持つ二人だからこそ、停戦を決めることが出来たようだ。 両者の一戦は、引き分けであった。 「貫け!!光の槍!!」 ルーの魔法を優々と避ける。ファルは余裕の表情だった。 言うわりには大して強くない、少々気落ちしてしまっていた。 〈直線系〉の魔法しか使用しないし、ミリエラと手合わせしていたファルから見れば、彼女の得意とする〈網状系〉の魔法の数倍避けやすい。 「それだけかい?たしか、あんたもゼロの同級生だった奴だよね?何であんたみたいな弱い奴がゼロの友達だったの?北の奴もそうだった。弱いくせに、ゼロの友達面しやがって……。ゼロはお前らみたいな弱い奴と一緒にいるべき人じゃないんだよ!」 甲高い叫びと共に、ファルの剣線は鋭くルーのローブを裂いた。 「選択だ。5秒やるよ。ボクの前から失せるか、死ぬか」 ルーは押し黙った。 「……が……おまえ……が……お前がぁぁぁ!!!お前がシューマを殺したのか?!許さん……シューマは……あいつは北にいなきゃいけない奴だったんだ!!ゼロだって折角北と西が仲間になれたのにシューマがいないことを悔やんでいる!!」 突如荒れ狂い叫びだしたルーを見て、周囲の兵たちが驚きの表情を見せた。 「罰だ……お前、死ね」 ルーの表情が変わった。恐ろしく、低い声。 鬼のような、感情のない眼。 何者も恐れぬ眼。 「縛れ!!怒り!!」 「な?!」 ルーの魔法が発動。反応出来なかったファルだけでなく、周囲の東と西の兵も動けなくなった。 彼の使った魔法は、〈空間系〉の魔法で、指定した空間内の者を麻痺させる魔法であった。 「“シューマの死”その身で償え」 ルーの右腕が上がった。 その手のひらに光が収束していく。 ファルは諦めたような目つきでそれを眺めた。 ―――人の死って……呆気ないもんだ……。どうせなら、ゼロの側でまだ戦いたかったけど……ここまで、か……。ま、いいや。 ファルは、己の死に直面して尚、酷く落ち着いていた。 光が、ファルの身体を包み込んだ。 「ちっ……!!こちらの消耗がヒドイ……。無念だが、撤退する!!」 グレイが叫んだ。その声を聞くやすぐさま西の精鋭であるはずの虎狼騎士を筆頭として軍が引き上げて行く。 ―――引き際を心得たる、か。グレイ、成長したな……。 ウォービルは、あえて追撃させなかった。そして、自軍を引き上げさせた。 ゼロの周りの兵も着実に減っている。如何せん敵の数が尋常ではないのだ。 刹那。 「ユフィ!!」 ゼロが瞬時に抜刀し、ユフィの頭部を狙った矢を叩き落した。 「誰だ……?こっちか……?」 無意識のうちに下馬し、ゼロの足は自然と矢の飛んできた方へと進んでいた。 ユフィもそれに従事したが、戦いの最中の戦士たちはそれに気付かなかった。 前線で戦っているベイトと、テュルティはもちろんのこと。 この判断が、ゼロの致命傷となった。 「いくら僕らが強くても、敵が多すぎる……!」 ベイトが剣を振いながら背後のテュルティに言った。 「これくらいのハンデ、丁度いいくらいじゃないですか♪」 テュルティは、少し実戦を楽しんでいた。 今までは近衛兵として戦場に立つことはなかったのだ。 悠々と剣を振い、魔法を唱え、敵を駆逐していく。その様は、ここを戦場だと思わせないように、子供のように生き生きとしていた。 その姿をちらっと一瞥したベイトは、その姿を羨ましく思った。 ―――西の騎士なら……虎狼騎士なら……敵を殺すことを躊躇わない。躊躇っちゃいけないのかもしれない……。しかし、これも、アリオーシュの血なんだろうか……?凄い……。 「ほらほらぁ♪頑張らないと、死んじゃうぞ♪」 テュルティが切り込んでいく。それにベイトも続く。どうやら彼女の割り切りの良さは敵の戦略をものともしないようだった。ウォービル顔負けの荒武者だ。 ―――彼女が……味方でよかった……。 ベイトは完全にテュルティのサポート役に固定していた。支援魔法を唱えたり、左右や背後の敵を倒したり。二人のコンビネーションは、すでに長年のパートナーのそれとなっていた。見事なコンビネーションに、敵兵はばたばたと倒れていく。ベイトもそれに呼応したように、悩む暇なく、息つく暇なく、忙しなく剣を振っていた。テュルティのペースに飲まれているようである。 「調子に乗りすぎだ、小娘」 えらく抑揚のない声が、二人に聞こえた瞬間。ベイトはテュルティに飛び付き、押し倒していた。 「な、何するんですか?!」 テュルティは焦ったのか声が裏返っていた。何やら変な勘違いをしたらしい。 「死ぬとこだったよっ!!」 ベイトがさっきまでテュルティがいたところを指差した。そこには、大きな跡があり、大地が抉れているようだった。 「うわっは……ごめんなさい」 彼女はそれでも少しとぼけたような顔だった。おそらくこの性格は、一生直らないであろう。 「小僧、なかなか良い反応だったな。だが、それもここまでだ」 またもや、声。 ベイトはすぐさま座り込んだままのテュルティを抱きかかえ、右に跳んだ。その際に一本のダガーを投げていた。 「ほぅ……なかなかやるな、小僧。虎狼騎士か?」 人相の悪い、えらく大きな剣を軽々と持っている男が現れた。ベイトのダガーは脇の木に突き刺さっていた。彼が持つ武器はおそらく3メートルはあるであろう大剣。それは、昔話の巨人が愛用していそうな剣であった。 「僕も彼女も虎狼九騎将だ!!ルーファス・コースティル!!」 ベイトが、憐れみのような、怒りのような顔で男、ルーファスを見た。 「ほぅ……俺を知っていたか。ゼロは元気か?あいつがいなくなったら、今度は北が西と仲良しこよしだ。北の英雄にも戻れはしない。だからここにいるわけだが、やはりゼロの存在が、一度でも俺を英雄から蹴落とした奴が憎い。小僧、その恨み、貴様でほんの少し晴らさせてもらおう」 ―――洗脳されたのか、狂ったのか……。 ルーファスの言葉はどこか変で、ぎこちない。だが。 ズダァァァァァァン!!!!! 彼の繰り出す一撃は、正しく一撃必殺。恐るべき速さと重さだった。 だが、ベイトにとって避けることは問題ではなかった。 敵の考えを読み、予想することに関しては他の虎狼騎士とは一線を画していた。 日々の修錬と学習が、如実に発揮されているのだ。 ベイトはテュルティに後退させた。 「ゴメン。テュルティさん……ちょっと下がってくれるかな?他の人たちと一緒に下がって、目を閉じていて」 ベイトが、暗い声で言った。 わけも分からず、だがベイトの声を聞き入れ、テュルティは下がった。そして眼を閉じる。周りの騎士もそれに順じた。 「……ルーファス・コースティル……すいません」 ベイトがナイフで指先を傷つけ、その傷から出た血で空に刻印を切った。 「……ベヒモスよ 眼前の敵を喰らえ」 その言葉と共に8つの目と、4本の足、闇色の長い鬣をたなびかせる、黒き、恐るべき巨体の魔獣が現れた。 『!!!!!!!!!!!!!』 咆哮。森全域に届いていてもおかしくないような、巨大な雑音。 その声にテュルティを始め多くの兵が耳を押さえた。 「ば、化け物…………!!!」 ルーファスが恐怖に引き攣った声で尻餅をついた。脅えきった、幼児のように。 「ごめん……ベヒモス、行け」 魔獣が、動いた。 ゼロは、二人組みの男女の戦士を見つけた。よく似た二人で、片方は弓を持っていた。見覚えもなく、どこの部隊でもないようだった。ただ鎧だけは立派な、上等兵の物だ。 「お前か……?ユフィを狙ったのは」 ゼロは抜刀し、半身の姿勢で構えた。男の方は、見ただけでも、かなりの強者であるように思われる。 「ほら、だから言ったろ?無駄だって。ゼロ・アリオーシュが王妃にゾッコンだって噂は有名だったろうが……」 男が他愛もないことを言うように、いや、他愛もないことを言った。 「え~~~!だって本当にただ噂だと思ったんだもん!!……あっ!ユフィ王妃が死ねば、フリーになるんだよね?……フフフ……流石あたし。鋭い♪」 ゼロは訳が分からず、ユフィと見合わせた。ユフィは現状を察知したのか、いつもと変わらず、いやいつも以上にニコニコしていた。 「どうしようゼロ?私殺されちゃうかも♪助けて~」 そう言いゼロの左腕に抱きつく。明らか、今の女弓闘士の言葉を聞いての挑発のようだ。 「あーっ!あーっ!!うぅぅぅ……兄さん、あたしに勝ち目はないのぉ?」 「ない」 ゼロは剣をしまった。馬鹿らしくなったのだ。 「ユフィ、戻ろう。こんな馬鹿どもに付き合ってるヒマはない」 ゼロが踵を返したと同時に、ゼロは強烈な殺気を感じた。 「逃げるのかい?俺も東の兵士だぜ?俺はヴァルク・ジェネラル、こっちの馬鹿がコトブキ・ジェネラル。俺の妹だ」 ヴァルクと名乗った男は、無骨な感じの、美形という訳ではないが、明るい感じの青年であった。妹の、コトブキは、変に愛嬌のある、雰囲気的な年齢の割に小柄な少女であった。 「馬鹿って言うな!」 女弓闘士――コトブキが兄に向かって反論する。 「ジェネラル……?東孤児院の奴か。だが、いくら帰りを待ってる家族がいないからと言って、命を捨てていい訳じゃないだろ?」 ジェネラル姓は、東に住んでいる孤児院院長の姓で、そこの孤児院で育った者は皆ジェネラルを名乗る。 「ハッ。もう勝つ気か?この俺に。本当ならもっと名が知れてもいいんだが……生憎俺は、コレがある割にコレもあるんでね」 ヴァルクは、ゼロに手の甲と耳を示した。長い耳に、手の甲の痣。 「……ヒューマノイドエルフか、ハーフエルフか……。禁忌の子だったのか……」 禁忌の子、それはエルフとヒュームを両親に持つ、両方の特徴を持つ者の呼び方である。一般的に、保護されることなく餓死するか、奴隷となることが多い。特に、ヒュームの血の濃いヒューマノイドエルフはその対象になりやすい。いや、森にいるのだとすればなるしかない。 「幸いハーフエルフさ。だからこそ、生きてこれた」 ハーフエルフは東と西はエルフとして扱っているが、南と北ではまだエルフではないと規定している。 東にいたことが、今まで生きて来られた理由でもあるだろう。 「ムーンはいけ好かないが、仮にも俺とコトブキを一戦士として認めてくれた。さらにお前を討ち取ったら、俺だけじゃなく、全てのハーフエルフに人権を与えてくれるそうだ。だから、俺はお前を殺す」 ―――強いな。それ故に…………。 キィィィィン!!! ゼロとヴァルクの剣がぶつかり合った。 「ちょ!兄さん!!なんで戦うの?!」 競り合っていた最中だったが、その言葉にゼロとヴァルクの剣が、ガクッと下がった。 この場をなんと思っているのか、そのような感じである。 「……すまん。この勝負は、また今度だ」 ヴァルクはゼロに背中を向け、コトブキを連れ歩いていった。 「……敵に背を向けるとは、余裕だな。油断大敵とも言うぜ?」 ヴァルクは背中を向け、歩いたまま言った。 「人のこと言えた口か、お前は。それに、お前は不意打ちで敵を倒すようなやつじゃない。強い奴が相手なら尚更正々堂々戦って、決着をつける奴だろう。俺は、そう思ったが」 ゼロはその言葉を聞き、剣を収めた。ユフィも微笑んだ。 「次に会うときは……どちらかが死ぬときだな」 「あぁ」 両雄は、決着をつけずに立ち去った。 ―――面白い男が出てきたな……。 ゼロは久々な強敵の出現に、不謹慎にも心踊る気持ちだった。 テュルティは、しばらく激しい何かの息遣いに脅えていたが、静かになったので、半眼を開けた。そこには、地獄絵図でさえ可愛いような、死屍累々、血生臭い光景があり、付近に無数にいた東の兵は、一兵たりとも生きていなかった。その中にただ一人、一滴の血さえ被っていない、ベイトの変わらぬ穏やかな姿があった。 「ベイト……さん?」 テュルティが、流石に震えた声で言った。ベイトはゆっくり振り返り、いつもの表情をしてくれた。今だけは彼の中性的な笑顔がもたらす温かさが感じられない。 「さぁ、ここの戦いは終わりましたよ。ここは引き上げましょう」 ベイトが指示を出す。よくは分かっていないだろうが、兵は指示に従った。 「ゴメン、テュルティさん。今のことゼロには、言わないで」 ベイトが引き上げる最中、ぼそっと彼女に告げた。 「ふぇ?あ、はい。分かりました」 テュルティは、その言葉通り気にしないことにした。割り切ることが大事なのだ。そのおかげで、生きてこられた。彼女はそう思っている。 ―――でも、謎ではあるんだよね……。 テュルティに、ベイトに対する不思議な感情が生まれた。 西の軍勢は、南から敵を敗走させたとの情報を聞き、帰路についていた。 「だいぶ……兵が死んだな……」 ゼロは俯いて、そう言った。誰もが俯き、顔を上げようとしない。 「すまない、俺の指揮がもっとしっかりしていればな……」 グレイがゼロに謝った。ゼロは、俯いたまま。 「いや、グレイの所為じゃないよ。俺のほうが馬鹿な行動に出ちまったし。……仕方がなかった。そう思うしかない。誰だって、親父が東にいるなんて思わないからな……」 ゼロは、やはりウォービルが敵側に回ったのがショックだった。 尊敬していたのだ、父を。 それに、裏切られた。 「ゼロ、ファル君は?」 ユフィが、ふと思ったように口にした。 一部の兵は分かっていたが、口に出来なかった。 ファルが戦死したであろうことを。 「……戻ってこないとなると……はぐれたか、捕らえられたか、最悪のケース……」 ゼロは哀しそうに言った。その最悪のケースは、口にできない。 「誰か、ファルがどうなったか、知らないか?」 ゼロは、気付けば5000から2000ほどまで減っている兵士たちに問いかけた。一人の兵士が耐え切れず『ファルさんは……敵の魔法で……』そう答えた。 さらに哀しく、重い雰囲気となる。もはや、誰も言葉を生み出すことすら出来なかった……。 西に帰り着くや、ゼロは自室に籠もり、涙していた。多すぎる、犠牲。戦争をやっているのだから、犠牲が出ないわけはない。だが、今回はズタズタに負けた。敵こそ追い払ったものの、西は犠牲が多すぎた。 「俺の……俺の所為だ……」 ゼロの部屋の前で、ユフィと、アノン、ミリエラは、入る雰囲気ではないことを悟り、扉の前で俯いた。 まだまだ発展途中のゼロ。 だが、時代は完成品のみを求めている。 ゼロ率いる西は、完成された軍勢となれるのか? 時代は、まだ動き始めたばかりであった。 |